【今日の和歌 原文】
もののふのよろいのそでをかたしきてまくらにちかきはつかりのこゑ
武士の鎧の袖を片敷きて枕に近き初雁の声
上杉謙信 陣中にて
【現代語訳】
鎧の袖の片方を敷いて仮寝をしていると初雁の鳴き声が、枕もと近くで聞こえる。
【かたしき】・・・元来、衣の片袖を敷いてひとり淋しく寝るの意。
【はつかり】・・・秋になると渡来してくる雁のこと。
【鑑賞のポイント】
男の子なら好きな人が多い、上杉謙信の歌です。
謙信と言えば、戦国時代に「軍神」として恐れられた、最強戦国大名の一人ですね。武田信玄との川中島の合戦はとても有名です。上杉謙信は宿敵武田信玄が周辺の国より塩を封鎖された時、塩を送ったような義侠心に富む人物でした。(敵に塩をおくるのもととなる逸話)また、戦いに明け暮れていながらも、教養があった人物として有名です。
その謙信が、天正五年(一五七七)、能登攻略の為、越中(富山県)魚津城に陣を進めていた時に詠んだ歌です。「歌を詠む」と聞くと頭に浮かぶのが、白い顔で、ぽっちゃりとした貴族が、「好きだ」「きれいだ」と歌を詠む姿が浮かぶかもしれませんが、そんなことはないんです!
心が動けば、誰でも歌を詠んでいたんです。
鎧の袖を片敷くとは、こんな感じだろか↓
「片袖を敷く」という言葉は、元来貴族が添い寝をする時、お互いの袖を敷きあって寝ていたので、敷いてあげる相手がいない。つまり一人寂しく寝る。という意味で使われていた言葉です。
しかし、この歌では「もののふの」「よろいの」と畳みかけているので、
そのような、なよなよした寂しさではない!
命を賭ける武士の、戦い前の孤独感。のようなものが感じられます。
夜が明ければ、命を賭けた戦いが始まる。
そのような緊張感が張り詰める静かな夜。
そこに雁の声が響く。
とても静かな夜であるから、その鳴き声はよく聞こえる
陣中、話す者のいない中、
唯一声を出してよい雁が鳴いている。
まどろみながらその声を聞く武士たちの緊張感は
いかほどだったか。。。
そんなことを感じながら、是非詠んでいただきたい歌です。
上杉軍の統率、強さはこういうところにあったのかもしれません。
ちなみにこんな逸話があります。(原典が分からなかったので、記憶違いならすみません)
徳川家康のもとで、大阪の陣をたたかっていた時の話。
ある徳川家の武将が景勝の陣を訪れたところ、
全兵士が一言も話さず、まっすぐ敵陣地を見て待機していた。
その姿に、さすが上杉軍と、みなが関心したとのこと。
戦国武将の歌、いかがですか?
たった三十一文字の和歌から上杉軍を感じられるってすごくないですか!?
言葉は空間を超えますね!