おいどんブログ

和歌・短歌を紹介します!

憶良は今は罷らむ子泣くらむそれ彼の母も吾を待つらむぞ

f:id:oidon5:20190609142156j:plain

 和歌原文

憶良は今は罷らむ子泣くらむそれ彼の母も吾を待つらむぞ

おくらはいまはまからむこなくらむそれかのははもわをまつらむぞ

                   山上憶良 万葉集』三三七

現代語訳

憶良は今帰ります。子供が泣いているでしょう。その母(妻)も私を待っているでしょうか。

 

文法

f:id:oidon5:20190609130558j:plain

鑑賞のポイント

 万葉集』「山上憶良臣、宴を罷る歌一首」として掲載されている短歌です。ある宴をおいとまする時に憶良が参加している方々に詠んだ歌です。この宴は太宰帥(大宰府長官)大伴旅人主催のものでした。大伴旅人と言えば・・・元号「令和」のもととなった『万葉集』「梅花の歌三十三首幷に序」の宴を主催していた人物ですね。憶良が筑前守(福岡辺りの長官)として赴任した頃、大宰府長官は旅人だったんです。

 宴会の途中でおいとましようとする憶良。場を白けさせず、その場を立ち去る時の気の利いた一言。そこで詠んだ子を思う歌でした。この歌には「憶良」「子」「彼の母」と登場人物が出てきます。これは「子」を中心として、その父を「憶良」その母を「彼の母」と呼んでいるのです。つまり「子」に焦点を当てて、子供の気持ちを中心とした歌なのです。ここでも子煩悩の憶良が垣間見えますね。

 また、この短歌は一首三文の歌です。「短歌をつくろう」のブログでも書きましたが、短歌は基本的に「一首一文」であることが大切です。それは感動を一首に込める時に、最初から最後まで精神が通っていることが大切だからです。しかし、この短歌は

「憶良は今は罷らむ。子泣くらむ。それ彼の母も吾を待つらむ。」と3つに切れている一首三文の歌なのです。「む・・・む・・・む」という音の繰り返しや、子供を中心とした登場人物のあらわし方で、一首三文でありながら統一感ある短歌となっているんですね。

 この宴の反応はどんな感じだったんでしょうかね。「憶良、また家族か~!」といじりながらも、憶良を送る雰囲気が目に浮かびます。家族想いをストレートに表現する憶良がかっこいいですね~。

 

心に短歌を!

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 

参考文献

『短歌のすすめ』夜久正雄、山田輝彦著 国文研叢書