おほかたに さみだるるとや 思ふらむ 君恋ひわたる 今日のながめを
短歌原文
おほかたに さみだるるとや 思ふらむ 君恋ひわたる 今日のながめを
おほかたに さみだるるとや おもふらむ きみこひわたる きょうのながめを
おほかたに(大方に):大体、一般的に、ふつう
さみだる(五月雨):梅雨の長雨。
らむ:推量 ~だろう
こひわたる(恋ひ渡る):長い間、恋い続ける
ながめ:長雨 (ながめ=眺め=ぼんやりと考える という意味もある)
現代語訳
普通の梅雨の雨だと思っているでしょうけど、あなたのことを想い、流す私の涙なのですよ。今日の長雨は。
禁断の恋の歌
今回の短歌は『和泉式部日記』の中に掲載されております。『和泉式部日記』とはその名の通り、和泉式部という平安時代中期の貴族・歌人として有名な女性が書いた日記です。ただ、和泉式部は恋多き女性だったようで、Wikipediaによると、藤原道長からは「浮かれ女」と評され、紫式部からは「恋文や和歌はよいが、素行がちょっとね・・・」と評されていたようです。この『和泉式部日記』自体、宮(敦道親王)と女(和泉式部)の恋模様が和泉式部視点で書き留められています。恋模様といっても、若き二人の純朴な恋愛話ではなく、複雑な大人の男女の話なんです。
まず、和泉式部は冷泉天皇第三皇子 為尊親王と恋をしていました。しかし、この為尊親王が亡くなり、悲しみの毎日を過ごしていました。(ちなみにこの時、和泉式部には橘道真という夫がいました!)そのような時に、為尊親王の弟である冷泉天皇第四皇子 敦道親王より手紙が届きます。最初は文通から始まり、二人は会うようになり、そして恋仲になっていきました・・・。最終的には、敦道親王は和泉式部を家にまねき、正妃は家をでてしまうことになりました。略奪愛ってやつです。。。
そして、今回の短歌はずばり宮(敦道親王)と女(和泉式部)とやりとりの中に出てくる短歌で、宮(敦道親王)が女(和泉式部)に送った短歌となります。それでは、恋人気分でそのやりとりの世界に入っていきましょう!
文通をのぞいてみよう!
(原文)
雨うち降りて、いとつれづれなる日ごろ、女は雲間なきながめに、世の中をいかになりぬるならんとつきせずながめて、「すきごとする人々はあまたあれど、ただ今はともかくも思はぬを、世の人はさまざまに言ふめれど、身のあればこそ」と思ひて過ぐす。
宮より、「雨のつれづれなるはいかに」とて、
宮:おほかたに さみだるるとや 思ふらむ 君恋ひわたる 今日のながめを
とあれば折を過ぐし給はぬををかしと思ふ。あはれなる折しも、と思ひて、
女:しのぶらん ものとも知らで おのがただ 身を知る雨と 思ひけるかな
と書きて、紙の一重を引き返して、
「ふれば世の いとど憂さのみ 知らるるに 今日のながめに 水まさらなん
待ちとる岸や」と聞こえたるを御覧じて、立ち返り、
宮:なにせんに 身をさへ捨てんと 思ふらん あめの下には 君のみやふる
たれも憂き世をや」とあり。
(現代語訳)
雨が降り続き、とっても暇な毎日を過ごし、女性は雲に覆われた外の眺めに、ああこれからどうなっていくのかしらと好きな人のことを考えていた。「私に言い寄ってくる男はたくさんいるけれど、今はなんとも思わない。世間では私のことを色々言っているようだけれど、『身のあればこそ・・・』(いづ方に行き隠れなん世の中に身のあればこを人もつらけれ→どこかに隠れて暮らしたい。世の中で生きていくと、人が冷たい)って歌のようだわ」と思って過ごしていた。
そのような時に宮より「この暇な雨の毎日をどう過ごしていますか?」と。続けて
宮「普通の梅雨の雨だと思っているでしょうけど、あなたのことを想い、流す私の涙なのですよ。今日の長雨は。」という歌が届いた。
なんと抜群のタイミングに手紙をお送りになられること。ちょうど気持ちも沈んでいた時に・・・と思って、
女「私のことをしのんで流した涙なんて知らずに、私の身の程を知るための雨と思っていました。」と歌を書き、紙の1枚を裏返し、
女「降り続く雨のようなこの世間の中で生きていると、辛いことばかりを思い知らされます。今日の長雨で水かさが増して、私を流してほしい 私を救ってくれる彼岸はあるのでしょうか・・・。」と書いた。これを宮は御覧になり、返信をくださった。
宮「どうして、大切な身を捨てようと思うのですか。雨はあなただけに降るわけではないのですよ。 誰にとっても辛いことの多い世の中ですよ。 」とありました。
どうですか?このやりとり!宮が和泉式部を好きなことがすごく伝わりますが、和泉式部がモテる理由もなんだか分かる気がしませんか?もっと言うと男性の心を掴むのが上手です。「ああ、私なんて」と弱い女性を男性は守ってあげたくなり、はまっていく。そんなことを勝手に想像してしまいました。決してだましたり、繕ったりしてアピールをしているわけではなく、普通にそれができてしまう。つまり天性のモテる女性だったのではないでしょうか(でも女性から嫌われる)!!!もし実際はそういう人物でなかったら、すみません、和泉式部さん。
現代であれば、ちょうどいいタイミングにLINEが来るって感じですかね。ただ、そのやり取りの中に短歌が出てくるのかおしゃれですね。歌を詠んでもらうとは、受け取る側から考えると「こんなに私のことを考えてくれたのか」と思えることではないでしょうか。 五七五七七の中に想いを詰め込むのです。熟考した31文字です。伝わらないはずがないです。
雨の続く毎日に。家にずっとこもっているであろうあの人に。この短歌のやりとりのように、連絡をしてみてはいかがでしょうか?
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
心に短歌を!!!