夏の夜は まだ宵ながら 明ぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
短歌原文
夏の夜は まだ宵ながら 明ぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
なつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ
宵:夜になったすぐの頃
明ぬるを:明けるが 「ぬる」完了の助動詞、「を」逆説の接続助詞 ~だが
いづこ:どこ
らむ:~だろう 原因推量の助動詞
現代語訳
夏の夜は、夜になったと思ったらすぐ明るくなるけれど、月は隠れる暇もなく、どこかの雲で休んでいるのではないだろうか。
詠み人は誰?
今回の短歌は、清原深養父(きよはらのふかやふ)という平安時代中期の貴族が詠んだ歌です。 この人物は清原元輔(2番目の勅撰和歌集『後撰和歌集』の撰者)の祖父であり、『枕草子』で有名な清少納言の曾祖父でもあります。本人自身、日本初の勅撰和歌集(国が認めた「いい和歌」を集めたもの)『古今和歌集』に17首、。小倉百人一首にも採用されるなど、文学の才能が溢れる人物でした。中古三十六歌仙(和歌の名人36人)の一人としても撰ばれております。ちなみに、今回の短歌は『古今和歌集』、百人一首にも撰ばれている歌です。
この短歌には2つのおもしろい表現があります!それでは見ていきましょう。
①オーバーすぎる表現
この短歌のおもしろい表現の1つ目。それはオーバーすぎる表現で夏の夜の短さを表現しているところです。その部分が「まだ宵ながら明ぬるを」という部分です。この「宵」とはいつか?「宵」は日が暮れて間もなく。を意味しています。つまり、日が暮れてすぐに明るくなる。と表現しているんです。いくら夜が短い夏とはいえ、それはオーバーすぎませんか?仮に20時に宵をむかえるとして、22時に明るくなるみたいなことです。「いやいやオーバーすぎでしょ」という表現を使って、夏の夜の短さを印象的に強調しているのです。
②空想してみた表現
この短歌のおもしろい表現の2つ目。それは空想表現です。「雲のいづこに 月宿るらむ」と清原深養父は空想を膨らませます。月は東から昇り、西に沈みます。しかし、あまりにも早く夜が明けるために、西に沈むことができずにどこかの雲に宿っているのだろうと想像するのです。「えーっ、もう明けるの?やばい!どこかに宿らないと」と焦る月の姿をイメージしてしまいます。清原深養父もそんなことをイメージしていたのかなあとどこか心が通う気持ちがします。
あらためて短歌を味わう
夏の夜は まだ宵ながら 明ぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
あらため声に出して詠んでみましょう。すると古代の歌が想像力を掻き立てられる物語として立ち上がってこないでしょうか。
夏の夜が明ける時に、暑さでもし目覚めたら、急いで雲に宿ろうとするお月さまをイメージしてみましょう。
心に短歌を!最後まで詠んでいただき、ありがとうございます。