おいどんブログ

和歌・短歌を紹介します!

ちはやぶる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは

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短歌原文

ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは

 

ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは

                在原業平 『古今和歌集』秋・百人一首

 

ちはやぶる :「神」にかかる枕詞。勢いが強い。荒々しい。

神代    :神々の時代。神話の時代。

竜田川   :奈良県を流れる一級河川

からくれなゐ:唐紅・韓紅(韓の国から渡来した紅)深い鮮やかな紅色

くくる   :くくり染め(絞り染め)にする。

現代語訳

色々と不思議なことのあった神の時代でも聞いたことがない・・・。竜田川が水をこんなに(紅葉で)鮮やかな紅色に絞り染めにしているとは!

 

漫画・映画で大人気の「ちはやふる

 今回は競技かるたを題材にした漫画「ちはやふる(後に映画化)で有名な短歌です。漫画の作者である末次由紀さんによると、作品タイトルは小倉百人一首にも撰ばれている今回の短歌をもととしており、「勢いの強いさまというちはやふるの本当の意味を主人公が知り、表現していく物語なのだと思う」と発言されております。ちなみに主人公は綾瀬千早(映画では広瀬すずが演じた)となります。 ―Wikipedia ちはやふるよりー

 では、この短歌の詠まれた背景をみていきましょう!

 

モテ要素たっぷりの在原業平

 在原業平(ありわらのなりひら)は、平安時代初期~前期(825~880年)の貴族でした。平城天皇の孫で、血筋がとても良い身分であり、平安時代に編纂された『日本三大実録』によると「体貌閑麗、放縦不拘、略無才覚、善作倭歌」と評されています。つまり「見た目はかっこよく、物事にとらわれない奔放さがあり、頭はあんまりよくないけど、いい歌を作る」人だったということです。なんかめちゃくちゃモテそうな人ですよね。実際めちゃくちゃモテたようです。ちなみに、六歌仙三十六歌仙の1人に数えられている歌人であり、平安時代の恋愛小説である『伊勢物語』のモデルではないかと言われております。

竜田川がこんなことに!その驚きの結末は・・・

 さて、それでは短歌を味わっていきましょう。まず、この短歌は倒置法&二句切れを使っています。「竜田川 からくれなゐに 水くくるとは ちはやぶる 神代もきかず」が元々の文章の流れですね。それを「ちはやぶる 神代もきかず」と最初に持ってくる(倒置法)ことで、驚きを強調してあらわしております。また、「ちはやぶる 神代もきかず」で一旦文書が切れております(二句切れ)。 「神代でも聞いたことがない!!!」という強調がより際立つ表現ですね。次に、擬人化も使っております。「竜田川さん」が「からくれなゐに 水くくるとは(水をこんなに紅葉で鮮やかな紅色に絞り染めにしているとは)」という部分ですね。つまり、竜田川絞り染めをしているという擬人化です。確かに、川が絞り染めをしているなんて、神の時代にも聞いたことがないことですね。このように倒置法や擬人化を使って、在原業平竜田川が紅葉で真っ赤に染まっている様への感動をあらわしているのです。

 これで終わりにしたいところなのですが、続きがあります。この作品は『古今和歌集』におさめられており、この短歌の説明文が次のように書かれております。「二条の后(きさき)の春宮の御息所(みやすどころ)と申しける時に、御屏風に竜田河にもみぢ流れたるかたをかたりけるを題にてよめる」と。訳すと「二条の后=藤原高子が春宮の御息所(皇太子の御母)と呼ばれていた時に、屏風に描かれた竜田川にもみじが流れる様子を題に歌を詠んだ」 ということは・・・実際に竜田川が紅葉で真っ赤に染まっている様子を見て詠んだのではなく、竜田川が紅葉で真っ赤に染まっている屏風に描かれた絵を見て詠んだということです。さすが「善作倭歌」の在原業平。屏風の絵からも、情景が浮かぶような。そして感動が伝わる歌を作るとは・・・。

 

心に短歌を!

最期まで読んで頂き、ありがとうございます。