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この味が いいねと君が言ったから 七月六日は サラダ記念日

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短歌原文

この味が いいねと君が 言ったから 七月六日は サラダ記念日

 

俵万智 『サラダ記念日』

 

俵万智さんの 口語短歌

 「短歌って何か昔の人がやってたやつ?」「渋いなあ」とみなさん思うかもしれませんが、この短歌はいかがでしょうか?どの単語も親しみやすく、意味もすっと入ってくる。普段使う言葉がそのまま短歌になった口語短歌というものです。そして、この口語短歌の第一人者が今回の短歌を詠んだ俵万智(たわら まち)さんです。

 俵万智さん早稲田大学在学中に短歌を作り始め、卒業後は高校教師として働きながら創作活動を続けました。1985年角川短歌賞次賞、1986年角川短歌賞、そして1987年に『サラダ記念日』を発表。歌集がまさかの大ブームとなり、280万部のベストセラーとなりました。(87年度ベストセラーランキング1位!)ちなみに、2015年ベストセラーであるピース又吉さんの芥川賞作品『火花』が年間約240万部発行ということなので、どれくらい社会的インパクトがあったか分かりますね。俵万智さんは現在も短歌を創作しています!個人的には俵万智さんのTwitterの自己紹介「ふだん三十一文字なので、ここはとても広く感じます。」という一文が何か好きです。

 さて、俵万智さんが詠んでいる口語短歌とはそもそも何か説明します。言葉には「文語」と「口語」があります。「口語」とは話言葉。つまり普段私達が会話で使っている言葉です。口語短歌とは普段会話で使っている言葉で創作された短歌。ということです。一方「文語」とは書き言葉で歴史的仮名遣いを使っているもの。現代の日本人には「文語」がピンとこないと思います。それは、明治時代に言文一致運動というものがあり、口語(会話で使っている言葉)と書き言葉を一緒にしていこう!という動きがあったからです。夏目漱石吾輩は猫である』はまさに口語で書かれた当時では革新的な小説だったのです。「口語」「文語」どちらの短歌がいいというわけではなく、口語短歌には親しみさや分かりやすさがありますし、文語短歌には独特の調べ(音のリズム)があり、悠久の日本と繋がるような感覚を得られることができます。短歌は難しいそう。と思われる要因の一つは文語が使われているからかもしれません。ただ、あまり肩ひじ張らずに、まずは31文字に想いを乗せてみましょう。

 

サラダ記念日を味わう

 それでら、今回の短歌について味わってみましょう。まず、俵万智さん視点からみると、彼氏なのか旦那さんなのか、秘かに好意を抱いている相手なのか。その愛する誰かに手料理を作ってあげたことが分かります。そしてその相手がサラダを食べて「この味がいいね」と何気なく褒めてくれた!小躍りするその気持ちから、何気ない一日を「サラダ記念日」にしてしまおう。といじらしく思うのでした。この「記念日にしちゃおう!」という発想はいかにも女性らしいですね。何の変哲もない7月6日に、君が「いいね」と一言をぽつりと言った。すると7月6日はサラダ記念日という特別な日に変わったということですね。このサラダ記念日を自分の心の中だけの記念日にしたのか。「うれしい!今日はサラダ記念日だね」と相手に伝えたのか。この短歌の先の二人の表情や会話を想像してしまいます。

 さて色々想像を膨らませたところで、俵万智さんがこの短歌を創作した経緯について後日、話をしているので見てみましょう!

①サラダではなく鳥の唐揚げだった!?

 なんと、サラダではなく鳥の唐揚げを彼氏に出した時に、いつもと違うカレー味にしたそうです。すると彼氏から「これいいな」と言われたため、嬉しくて短歌にしたそうです。ただ「唐揚げ記念日」は重たい雰囲気になってしまうので、軽いサイドメニューのサラダにしたそうです。

②7月6日

 サラダ記念日となると、野菜がおいしい季節。となると初夏の7月!ということで7月にしたそうです。そして7月と言えば・・・七夕の7月7日と思ったのですが、「何気ない普通の一日の幸せを歌にしたい」という気持ちから、七夕の前日である7月6日としたそうです。また、「しちがつむいか」という音がしっくりきたことも理由のようです。確かにそう言われると他の日付はもう考えられないですね。

制約の中に広がりがある

 短歌は三十一文字の中に自分の想いや感じたことを入れなければいけません。そしてそれが他人に伝わらなければいけないのです。これは結構難しいです。チョイスする言葉、言葉の順番を吟味して「本当にこの三十一文字は自分の想いを伝えているだろうか。他人に伝わるだろうか。調べ(リズム)はすっと心に入ってくるだろうか」と何度も自問自答しながら紡ぎ出された三十一文字が短歌となるのです。

 俵万智さんの短歌はとても平易ですが、三十一文字の中に2人の笑顔や相手への思いやり、その場の情景などの広がりを感じさせてくれます。制約があるからこそ言葉が洗練され、広がりがあるのです。不思議ですね。言葉を尽くさない方が広がりがある。これが短歌の魅力だということを教えてくれる一首でした。

 

心に短歌を!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!