おいどんブログ

和歌・短歌を紹介します!

親思ふ こころにまさる親心 けふの音づれ 何ときくらむ

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短歌原文

親思ふ こころにまさる親心 けふの音づれ 何ときくらむ

おやおもふ こころにまさる おやごころ けふのおとづれ なんときくらむ

吉田松陰 江戸獄中より故郷に送った手紙「永訣の書」より

 

けふ(きょう):今日

音づれ:手紙での知らせ

らむ:今ごろは~しているだろう(現在推量)

現代語訳

自分が親を思う気持ちよりも勝っている親の子を思う気持ち。

今日の自分の知らせを親はどう受け止めてているだろうか・・・。

(知らせ→自分が処刑されるとい知らせ)

 

吉田松陰について

吉田松陰は幕末の思想家。後に活躍する初代内閣総理大臣 伊藤博文高杉晋作久坂玄瑞などを育てた教育者として有名ですね。松陰は30歳という若さで、安政の大獄により処刑されてしまいます。この短歌はその処刑の1週間前に家族にあてた別れの手紙の中の短歌となります。

 

松陰については過去の記事を参照ください

 

↓同じく獄中の短歌

oidon5.hatenablog.com

 

 

↓黒船に乗り込む話

 

oidon5.hatenablog.com

 

 

oidon5.hatenablog.com

 

↓弟子久坂玄瑞との熱すぎる!往復書簡

 

oidon5.hatenablog.com

 

死を前に思う親心

家族に向けて書かれた処刑前の手紙「永訣の書」。この短歌の前に次のような言葉が書かれています。

(原文)「平生(へいぜい)の学問浅薄(せんぱく)にして至誠天地を感格(かんかく)すること出来申さず、非常の変に立ち至り申し候。嘸々(さぞさぞ)御愁傷も遊ばざるべく拝察仕(つかまつ)り候。」

(訳)「普段の学問が浅かったので、私の誠の気持ちでは天地を動かすことができず、処刑されることになりました。さぞお嘆きになられるだろうとお察しします。」

松陰が死を前にしていかに冷静に、自分の先を見据えていたか。そして死を捉えていたかが分かります。以前のブログで『留魂録』(仲間にあてた死を前にした手紙)について紹介しましたが、松陰の精神がいかに高いところにあったかが伝わります。もし自分だったら・・・死を前に決してこのような心持ちにはなれないでしょう。

 

死を前にして生まれてからの人生を何度も回想したでしょう。そこで浮かぶ両親の愛情。自分が今まで注いでもらってきた愛情を思い浮かべながら、この短歌を記したと思います。ちなみに松陰の家は家族仲が良く、松陰自身も親想いの青年でした。

この歌で松陰は「親思ふ」と自分の気持ちを最初に率直に述べました。しかし「こころにまさる親心」と自分の思いをはるかにこえる親の愛情に視点を変えます。そしてその親の愛情は「けふの音づれ 何ときくらむ」と続けます。自分は両親を本当に大切に思う。いやそんな自分より親はもっと私を愛してくれている。ああ、その両親はこの死の知らせをどう感じるだろうか・・・。最後には親の気持ちに立って、自分の死をどう感じるか考えるこの短歌は松陰の優しさを感じさせてくれます。

 

自分の死を前にしても残された人のことを思う。これは人間誰にも備わっている「優しさ」の発現ですね。

 

外出できず、辛い日々だからこそ、周りの人の愛情を感じられるいい機会かもしれません。

 

心に短歌を!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。